本当にやばいことをしてしまったと思う。
いや、「した」というか、しようとしてしまったというか。
私には忘れられない男がいる。
彼と付き合っていたのはどれくらい前だったか。
今の夫と付き合うことになり、お別れをしたのだから
もう6年くらい前になるのだろうか。
43とか44歳くらいに付き合った4つだったか3つだったか年下の男だ。
とにかく見た目がべらぼうに好みで、
私はゾッコンになってしまい思考能力がなくなるほどに腑抜けな女になってしまった。
当時同棲していた男性がいたのだが、それを解消してしまうほどに。
しかし彼はあまり良くない男性だった。
お金がいつもなく、定職もなく、ふらふらと契約社員をしていて
女性が好きで、いつもふわふわとした男だった。
あっちは私のことは、体目当てで
いっときは本気でつきあってみようかと思ってくれたこともあるようだったが、
すぐに飽きられ、重い私の感情に嫌気がさし、付き合いはうまくいかず別れることになった。
別れは私から切り出したものの、実際には私がフラれたようなものだった。
<私のことを>好きになろうと努力したよ。
と言われた日のことは忘れられない。
もう別れて、何年も経つのに
どういうわけかインスタで繋がっており、私は彼が再婚し子供までもうけたのを知ってしまっている。別れた男のインスタなんて。
ましてや未練がある男のインスタを、幸せそうな生活を見たくない。
見たいわけないのに、見たってなにもいいことなんて起こらないのに私は見てしまっている。
別れてからも彼は毎年正月に「あけましておめでとう」ラインを寄越してくる。
私はそれはあいつの罠とわかっているのに返信を毎年していた。
あいつは一度付き合った女を手放せないところがある。
例え他の男のものになっていても、
『正月の挨拶を交わすくらいには、まだ俺を受け入れているんだろう?』と
確認のラインをしてくるのだ。
距離感を測っているのだ。
その罠と相手の都合の良い年いちの確認ラインを私は甘んじて受け止めていたが、もう今年は返信しなかった。いわゆる未読無視をした。
彼はどう思ったか。
きっと心を揺さぶられたりはしなかったろうが、ちくりと「ラインブロックしたな」くらいは思ったかもしれない。お正月の挨拶ラインには自分のラインがブロックされたかどうか確認する意味も含まれていたのだろうから。
ラインには返信しなかったが、私は舐めるようにまだ あいつのインスタを眺めている。
消して私より美人には見えない奥さんが
貧乏くさい格好で動物園を歩いている写真を見、相手の連れ子と運動会に参加しているあいつを見ている。どうして私ではだめで、彼女だったら結婚まですすんだんだろう?そんな敗北感を感じながら、でもやっぱり貧乏そうだな、相変わらず。と奥さんの脱色されてカラーリングがきちんとできてない髪を歪んだ優越感で眺めている。
そして、何度も
何度も眺めるうちに私は嫌なことをしてしまった。
もう彼は当時私と付き合っていた頃の住所には住んでいない。
私たちは遠距離恋愛だったから
新幹線で移動するくらいの距離がある。
彼が住んでいる県は知っていたが、今の住所は知らない。
しかし娘の入学式の写真に学校名を発見してしまった。
そして学校名がわかれば、徒歩圏内に彼の現在住んでいる家があることも想像できてしまった。
彼は無防備に自宅の玄関前の写真や、車を置いている駐車場をよくアップしていた。
もうここまでわかれば、私はなん百キロも離れたここから
彼の自宅をグーグルマップで探すことができてしまう。
そんなことをして何なるのか。。
彼の現在の住所を知ったところで会いたいわけでもない。
でも私は自分の行動を止められなかった。
あっさりとそれは一時間ほどのグーグル探検でかなってしまった。
私は彼の現住所をいとも簡単に発見してしまった。
一度も訪れたこともなく、土地勘もないのに、その場所は何度も彼のインスタの上っていたので、私はなんでか懐かしい気持ちになっていた。
もちろん、直接訪ねるわけなんてない。
彼に会いたいわけもない。
でも住所を調べ上げて私は達成感を感じていた。
グーグルマップを操り、彼の家の周辺をネット散策して、あー。彼は毎日こんな風景を見ているのかと確認してみたり。
これはストーカーなのか。ネットストーカーなのか。
なんでなんで私は彼に執着してしまうんだろうか。
生まれて初めてこっぴどく振られたからだろうか。思いが成就できなかったから、いつまでも亡霊のように思いがふらふらするのか。
また付き合いたいなんて思わない。
また会いたいとも思わない。
でもつい、何度も思い出してしまう、彼のことを考えてしまう。
どうしたら、この思いを消化できるのか。
男としても。社会的に見ても。
もちろん金銭的にも絶対、今の私の夫の方が優れている。なのに、、、、
私とあいつは肉体で深くつながった付き合いだった。
肉欲で繋がったと言っても過言ではない。
そもそもの出会いがそんな始まりだった。
まだこっちに彼が住んでいた頃、私と彼は近所の携帯ショップで店員と客という立場で出会い、視線が絡んだ時には、もう互いにわかっていた。
あいつは私を抱く想像をしていたし、私は抱かれる想像をしていたし、
自然に互いの番号を交換して、そしてそんな風になった。
さぁ、あいつの現住所がわかった。
私はどうしたいのか。
私はなんであいつの住所をこうして探してしまったのか。
自分でも見つめたくない本心。本当の気持ち。本当の願い。
私があいつに執着してしまう理由。
私は、私はあいつを傷つけたい。体に傷をつけるのではなく、復讐をしたいのだ。
本当は彼の生活を壊したい。そんな風に思っている。
それに気がついてしまった。
恐ろしいことに自分の本当の本当の本性に気がついてしまった。
「私は彼を傷つけ、生活を壊したいと思っている。」
例えばこうだ。
私は彼にラインかDMをする。
「元気??なんか○くんのアレが忘れられないよ」
「会いたいな」
そんなビッチで直接的なメッセージを。
彼は絶対にのってくる。
確信がある。
そして貧乏でお金が今もないであろう彼にひたすら都合のいい女になってやる。
私そっちに行く予定あるんだけと
久しぶりに、どう?
ホテル代も私が払うよー
とまで言えば完璧だろう。
彼はのってくる。
でも実際には会わない。私がしたいのは彼との情事ではなく
彼を壊すこと。
かつて私が心を彼に何度も何度も壊されたように。私が今度は彼を壊す。
誘いにのってきた彼と日時を決める。
実際には会わないのだから、全部彼に合わせて都合よく全てをすすめよう。
そして日時が決まれば、あとはその日まで彼の期待を煽るような写真を送ってみたり、その時が待ちきれない〜というメッセージを何度もやりとりする。
卑猥であれば卑猥なほどいい。
そんなメッセージと写真と動画を準備して当日を迎える。
もちろん私は待ち合わせ場所には行かない。
彼には待ちぼうけをしてもらおう。途中で向かってるよ〜と連絡を入れながら二時間くらいは待ってもらおう。
そして私はそのままラインをブロックして、インスタをブロックして
彼との連絡を断つ。
彼との卑猥なやりとりは写真も動画もメッセージも全部、何枚もプリントアウトして、、、
そして今回判明した彼の自宅に送ろう。
郵便で、速達で、メール便で、宅配便で、一通だけではなく確実に奥さんが目にできるように数日に分けて何個も送ろう。
あいつが受け取ってしまうこともあるかもしれないけれど、発送の形を変えて、何通も送れば、奥さんがどれか一つくらいは目にするだろう。
私との時も、前の奥さんとの時も浮気をやめられなかった男だ。
今の奥さんとの時もきっと浮気してるだろうし、してなかったとしても、したい、チャンスがあればやる、そんな男だ。
だからそれを利用して私はやつを引っ掛けたい。
こんなことをしても復讐にもならないし、自分も虚しいし、でも私はこれをしたい。頭の中で何度もそんなシュミレーションをして
心の奥の消化できていない、あの頃の私の恋心を癒やしてみてる。
実際にはやらない。
やるわけがない。
でも本心ではやりたい、そんなふうに思ってしまう。